絶対安全剃刀―高野文子作品集
2004年6月8日 読書
最初読み初めた時は、「? なんかよくわからないかも」という印象だった。しかし、読み進めていく内に、途中で止められなくなり、「田辺のつる」で度肝を抜かれ、「午前10:00の家鴨」でひっくり返り、「うしろあたま」で完全にさらわれてしまった。
私は一種のアレルギーと思えるほど「恋愛マンガ」を苦手としているため、女性作家で好きな人はほとんどいませんでしたが、久々にハマってしまったようです。
表題作の「絶対安全剃刀」。
自殺しようとする少年と、その友人の話が、何とも明るく軽快に描かれている。
「田辺のつる」同様、作者は「痴呆」や「自殺」などといった重いテーマを軽妙に見せる。そしてその明るさが、かえって恐怖を誘い出しているようにも見える。
自殺しようとする少年は、ちょっとしたはずみで、誤って友人を殺してしまう。しかし、少年は驚きも悲しみもしない。
むしろ、自分より先に死んでしまった友人に「僕の役を横取りするなんて」とののしる。
そして最後、その友人の遺体に向かって、
「おいおまえねー、あしたの朝にはおきろよね」
と呟くのである。
私はこの作品を読んで、最近起こった恐ろしい少年犯罪を思い出した。
「死」というものがどんなものか、わかっていない。死んだとわかっている友人に対し、淡々と「あしたには起きろよ」というセリフが、自分が殺した少女に「会って謝りたい」という加害者の女の子のセリフにリンクして、背筋が震えた。
この作品はもう26年も前の作品だけれど、今読んでもちっとも古臭く感じない。
彼女のマンガには明確な「答え」は用意されていない。それ故に、読者によって実に様々な読み方、捉え方が出来る。
この作品も、読む方によっては、私以外の解釈も多様にあるでしょう。
今でなく、26年前の社会の中でこの作品を読んだなら、私自身も今とは違った感想を抱いたのかもしれません。
「うしろあたま」は、この作品集の中では一番ストレートな話なんじゃないでしょうか。私はこれが一番好きです。
なんと言っても見せ方が上手い。天性の漫画家なのではないかと思うほど、言葉では多くを語らず、絵で魅せる。
一言で言ってしまうと、一人の勝気な女の子の恋愛話なのですが、私が最も苦手とする、歯の浮くような甘ったるいセリフは出てこない。
彼女は最初、自分に好意を持っている彼のことを拒絶するが、雨の日の相合傘から、彼の肩幅、彼の指先、走り去っていく彼の後姿に視線を追っていく内に、自分の中の恋愛感情に気付く。
その彼女の視線を表現したコマが、この上なく巧みで、私はその彼のことが愛しすぎて切なくなって、思わず涙が出てきた。そう思ったら、主人公の女の子も一緒に泣いていた。
その瞬間、「ああ、私は今、彼女になっている」と思った。
読者に何の障害もなく感情移入させる。類まれな表現力を持った作家でしょう。
男女問わずおすすめですが、特に「少女」を描いた作品が多いため、男性と女性では全く違った印象を持つのではないかと思います。
私は彼女の作品を読んで、改めて「女に生まれてよかった」と思いました。
私は一種のアレルギーと思えるほど「恋愛マンガ」を苦手としているため、女性作家で好きな人はほとんどいませんでしたが、久々にハマってしまったようです。
表題作の「絶対安全剃刀」。
自殺しようとする少年と、その友人の話が、何とも明るく軽快に描かれている。
「田辺のつる」同様、作者は「痴呆」や「自殺」などといった重いテーマを軽妙に見せる。そしてその明るさが、かえって恐怖を誘い出しているようにも見える。
自殺しようとする少年は、ちょっとしたはずみで、誤って友人を殺してしまう。しかし、少年は驚きも悲しみもしない。
むしろ、自分より先に死んでしまった友人に「僕の役を横取りするなんて」とののしる。
そして最後、その友人の遺体に向かって、
「おいおまえねー、あしたの朝にはおきろよね」
と呟くのである。
私はこの作品を読んで、最近起こった恐ろしい少年犯罪を思い出した。
「死」というものがどんなものか、わかっていない。死んだとわかっている友人に対し、淡々と「あしたには起きろよ」というセリフが、自分が殺した少女に「会って謝りたい」という加害者の女の子のセリフにリンクして、背筋が震えた。
この作品はもう26年も前の作品だけれど、今読んでもちっとも古臭く感じない。
彼女のマンガには明確な「答え」は用意されていない。それ故に、読者によって実に様々な読み方、捉え方が出来る。
この作品も、読む方によっては、私以外の解釈も多様にあるでしょう。
今でなく、26年前の社会の中でこの作品を読んだなら、私自身も今とは違った感想を抱いたのかもしれません。
「うしろあたま」は、この作品集の中では一番ストレートな話なんじゃないでしょうか。私はこれが一番好きです。
なんと言っても見せ方が上手い。天性の漫画家なのではないかと思うほど、言葉では多くを語らず、絵で魅せる。
一言で言ってしまうと、一人の勝気な女の子の恋愛話なのですが、私が最も苦手とする、歯の浮くような甘ったるいセリフは出てこない。
彼女は最初、自分に好意を持っている彼のことを拒絶するが、雨の日の相合傘から、彼の肩幅、彼の指先、走り去っていく彼の後姿に視線を追っていく内に、自分の中の恋愛感情に気付く。
その彼女の視線を表現したコマが、この上なく巧みで、私はその彼のことが愛しすぎて切なくなって、思わず涙が出てきた。そう思ったら、主人公の女の子も一緒に泣いていた。
その瞬間、「ああ、私は今、彼女になっている」と思った。
読者に何の障害もなく感情移入させる。類まれな表現力を持った作家でしょう。
男女問わずおすすめですが、特に「少女」を描いた作品が多いため、男性と女性では全く違った印象を持つのではないかと思います。
私は彼女の作品を読んで、改めて「女に生まれてよかった」と思いました。
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